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最高裁判所第一小法廷 平成元年(行ツ)163号 判決

名古屋市緑区ほら貝一丁目一〇八番地

上告人

黒木節男

右訴訟代理人弁護士

天野雅光

同弁理士

中村政美

神崎正浩

東京都港区愛宕一丁目一番一号

被上告人

アルマン株式会社

右代表者代表取締役

片山豊

右当事者間の東京高等裁判所昭和六二年(行ケ)第二三五号審決取消請求事件について、同裁判所が平成元年九月五日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人天野雅光、同中村政美、同神崎正浩の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひっきょう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大堀誠一 裁判官 角田禮次郎 裁判官 大内恒夫 裁判官 四ツ谷巖 裁判官 橋元四郎平)

(平成元年(行ツ)第一六三号 上告人 黒木節男)

上告代理人天野雅光、同中村政美、同神崎正浩の上告理由

第一点 原判決には、判決に影響を及ぼすこと明らかな法令の違背がある。

一 原判決は、特許法第二条第一項における自然法則について解釈を不当に誤り、論理則・経験則違反がある。

本件発明は、喫煙具や喫煙具箱等の中空体に内在する呼吸作用という自然法則の発見を基礎として新規な発明を完成したものであるが、原判決は、この点について判断を誤ったものである。

1 すなわち、原判決には、特許法第二条第一項の、「この法律で、『発明』とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。」における、「自然法則」について解釈、適用の誤りがある。その結果、本件発明公報記載の重要事項である、喫煙具や喫煙具箱に内在する呼吸作用について、解釈を不当に誤ったもので、本件発明の技術的思想を誤認し、判決に影響を及ぼすこと明らかな論理則・経験則違反がある。

2 原判決は、「本件発明は、従来公知のPTPに喫煙具を封入したものにすぎず、喫煙具の包装上の技術的課題を解決するための特別な構成を有するものとは認められない。」(原判決第一五丁裏第一行~第四行)や、「本件発明が、喫煙具の呼吸作用に着目し、その呼吸作用による喫煙具内の煙道、又は中空孔内に生ずる衛生的危険を防止することを技術的課題としているものとは認められない。」(原判決第一五丁裏第一〇行~第一六丁表第二行)と、判示しているが、これは本件発明公報中にて、詳細に説明された呼吸作用について、自然法則の普遍性を誤認したことにより、喫煙具自体の呼吸作用に基づく本件発明の技術的課題の判断を誤り、判決に影響を及ぼすこと明らかな法令の違背がある。

3 原判決は、本件発明の重要事項の論証に論理則・経験則の違背がある。

すなわち、本件発明公報に記載されている「呼吸作用」は、例えば、一般公知の「万有引力という自然法則」の有する普遍性と同様な、空気が気温の変化により膨張、収縮する公知の「空気の自然法則」によって、喫煙具や、喫煙具箱等の中空体内の空気が、その内外に出入りする現象である。

この呼吸作用という現象は、本件発明の出願当時に、空気の自然法則の実在態様の中から、上告人が、初めて空気の自然法則が喫煙具や喫煙具箱等の中空体に働いて問題を生じていることを発見したもので、喫煙具の箱自体と喫煙具自体の呼吸作用は、別異のものではなく、不可分の関連性を有するものである。自然法則は、普遍性を有するものであるから、本件発明によって、喫煙具の呼吸作用という自然法則の実在が認識されると、喫煙具の箱自体の呼吸作用等の中空体に実在する呼吸作用が、帰納的に認識でき、また、中空体の喫煙具の箱自体の呼吸作用という自然法則の実在態様が認識されると、喫煙具の呼吸作用という自然法則の実在も演繹的に容易に認識できるものであるが、原判決の認定事実は、この点において不当に誤ったもので、論理則・経験則に違反し、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違背がある。

4 原判決は、喫煙具に呼吸作用が内在する事実に関する上告人の主張を、何等の証拠にもよらないで否定した不当なものであるが、本件発明公報記載の呼吸作用の普遍性は、当業者が認識できるできないに拘らず、現実に存在する事実であるから、原判決の事実認定には論理則・経験則からみて極めて異常な違反がある。本件発明の技術的課題が、喫煙具の呼吸作用という自然法則の発見を基礎としたものであることを、証拠に基づかないで否定した原判決には、判決に影響を及ぼすこと明らかな法令の違背がある。

二 原判決は、特許法第二条第一項における技術について解釈を不当に誤り、論理則・経験則違反がある。

1 すなわち、原判決は、特許法第二条第一項の、「この法律で、『発明』とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。」における、「技術」の本質について解釈を不当に誤ったもので、目的の達成と解決手段(構成)とを結びつけるものが技術であるから、目的が存在しない場合は、構成との結び付きが不可能であるから技術とはいえないものである。しかるに、原判決は、「原告は、呼吸作用を有する喫煙具を包装する本件発明の目的、効果は第一引用例及び第二引用例記載の考案からは予測し得ないものであるというが、」(原判決第一五丁裏第五行~第七行)とし、上告人が本件発明の喫煙具と封入面体よりなる構成も、予測し得ないと主張していることについて、首肯するに足る理由を示すことなく上告人の主張を排斥し、「たとえ、本件発明の目的、効果が原告主張のとおりであったとしても、右の目的、効果は第一引用例及び第二引用例に開示されたPTPに喫煙具を包装しても同様に達せられるのであることは右各引用例記載の考案の構成からみて当業者が容易に予測し得ることである。」(原判決第一六丁表第三行~第七行)と、判示して、本件発明の構成は、本件発明の目的、効果とは無関係に容易に予測し得るものであるというが、これは、技術の本質に反したもので論理則・経験則に違背し、審理不尽の違法がある。

原判決挙示の第一引用例及び第二引用例記載の考案からは原判決の認定事実を認定できる材料を発見できないから、原判決は、何等の証拠にもよらないで事実を認定した違法を有するものであり、この点で、判決に影響を及ぼすこと明らかな法令の違背がある。

2 また、特許法においては、明細書の詳細な説明の項には、その発明または考案の属する技術分野における通常の知識を有する者が、容易にその実施をすることができる程度に、その発明または考案の目的、構成及び効果を記載しなければならないと規定されている(特許法第三六条第三項、実用新案法第五条第三項)。よって、発明、考案は、目的、構成及び効果の三要素を備えることが規定されているが、原判決の判示は、喫煙具の技術的課題(目的)や、それを解決して得る技術的効果を予測することなく、また、本件発明の技術的思想を真に、思いつくことなく、当業者が、発明の構成要件だけを別個に考えて、喫煙具の選択を決定し、PTP上結合する発明が容易にできるとは、到底いえないものである。

原判決には、論理則・経験則に違反し、判決に影響を及ぼすこと明らかな法令の違背がある。

3 発明は、技術的課題を解決するために、公知の技術的要素の上に成り立っていることは顕著な常識であるから、換言すると、このような原判決の論法で、すべての特許発明の構成を後から再考して、それが容易にできるから、その特許は無効であるとか、その特許発明の目的、効果は、特許出願当時に、当業者が容易に予測できたともいえないものである。

したがって、本件発明の目的、効果を予測することなく、喫煙具封入面体が容易に創出できるという原判決の認定事実は、特許法第二条第一項に規定する発明の定義を誤って判断し、論理則・経験則に違反したものである。

原判決挙示の証拠からは認定事実を認定できる材料を発見することができないから、原判決には、虚無の証拠によって事実を認定した違法があり、判決に影響を明らかに及ぼしているものである。

第二点 原判決には、判決に影響を及ぼすこと明らかな訴訟手続違背がある。

一 原判決には、争いのある事実を争いのない事実として判断した違法がある。

1 すなわち、原判決は、本件発明と第一引用例記載との一致点および、相違点の認定ならびに、相違点(ア)についての判断が審決認定のとおりであることは争わない旨判示しているが、これは上告人の主張を斟酌せず作成された、昭和六三年六月七日第二回準備書面手続調書の要約に基づくものであるが、右時点において上告人は、訴状、昭和六三年五月二六日付第一回準備書面を提出しており、これを精査すれば上告人が右の点を争っていることは明らかであり、右要約は誤りであって、この点を平成元年一月二八日付上申書において指摘したにも拘らず、この排斥理由を示すことなく、右誤った要約が判決に引用され、原判決には争いのある事実を争いのない事実と判断した違法があり、これが判決に影響を及ぼすことは明白である。

2 原判決は、「四 審決の取消事由 第一引用例及び第二引用例には審決認定の各技術的事項が記載されていること、並びに本件発明と第一引用例記載との一致点、相違点が審決認定のとおりであることは認め、相違点(ア)についての審決の判断は争わない。」(原判決第六丁裏第一〇行~第七丁表第三行)と判示するが、これは本件発明の重要事項を誤認した、審決の相違点(ア)の判断、「本件発明の被包装体を挾んで個別に密封したことによる効果と、第一引用例記載の考案の包装体本体シートの凹部に収容物を収容して個別に密封したことによる効果との間に格別な差異があるとは認められないので、この相違点は設計上の微差にすぎないものと認める。」(原判決第五丁裏第七行~第一一行)に対する上告人の争点をかってに無視し、本件発明にて創作された技術的思想によって達成された喫煙具の内部に関する密封効果を、第一引用例記載の考案の錠剤、カプセルに関する密封効果と同一と誤認し、第一引用例公報記載の考案の技術的思想の判断を誤ったことによるものである。

審決の認定、判断は、発明を思想でなく形態と考えて判断を誤ったものであり、第一引用例記載の考案が、中実体で非呼吸性の飲食する錠剤、カプセル、等を構成要件の一つとしていることに対し、本件発明は、それと全く別異な、中空体で呼吸性を特性とする吸煙に使う喫煙具を、発明の構成要件の一つとしているものであるから、構成要件の一つであるPTPと封入面体の比較は、喫煙具を封入面体にて個別に密封するという構成を、発明全体の統一性の見地から検討すべきであるとして、本件発明と第一引用例記載の考案が、技術的思想と作用効果に差異を有する点を具体的に挙げて否認したものであるが、原判決は、上告人が是認しているとして、判決に影響を及ぼしているものである。

3 また、原判決は、その理由中において、「本件発明の包装形態はPTPと呼ばれる周知のものであって、第一引用例記載の考案のような、包装本体シートの凹部に収容物を収納した後、蓋側シートを金属箔層を外側にして重ね熱接着し収容物を密封した防湿性包装体と、その形状及び密封効果について格別の差異がないことは当事者間に争いがない。」(原判決第一三丁表第九行~裏第三行)と、判示しているが、これは上告人の主張を斟酌せず作成された、前述の昭和六三年六月七日第二回準備書面手続調書の要約に基づくものであるが、判決に影響を及ぼすこと明らかな重要事項である、発明の技術的課題が解決された結果の作用効果についての上告人の争点を不当に誤って解釈し、特許法第二条第一項の規定に反して、発明を思想でなく形態と解釈した審決の形状比較を引用して、本件発明の技術的思想によって奏する喫煙具の内部に関する密封効果を、第一引用例記載の考案の錠剤、カプセルに関する密封効果と格別に差異がないと、上告人が是認しているとして虚無の事実を認定した違法がある。

このように原判決は、特許法第二条第一項における発明の定義を誤認し、技術についての誤った解釈に基づいて、上告人の主張する本件発明と各引用例考案との技術的思想の差異について判断を誤り、本件発明の喫煙具内部の技術的課題を解決する解明手段によって奏される密封効果と、第一引用例記載の考案の密封効果との差異について、争いのある事実を争いのない事実として認定して、判決に影響を明らかに及ぼしているものである。

二 原判決には、釈明権不行使、審理不尽の違法がある。

1 すなわち、原審において、被上告人提出の平成元年五月一八日付準備書面(二)には判決の基礎をなす事実につき矛盾や、計算上の間違いがあり、上告人は同年六月一二日付準備書面(七)、同年七月四日付準備書面(八)において、本件発明の重要事項に関する被上告人の事実記載に、論理則・経験則違反や、計算上の根拠の間違いのあることについて、指摘したのであるから、裁判所はこれについて釈明すべきに拘らず、これをすることなく放置して結審した。原判決には、判決に影響を及ぼすこと明らかな釈明権の不行使、審理不尽の違法がある。

2 被上告人の準備書面(一)・(二)は、本件発明の要旨や技術内容を誤解し、本件発明と第一引用例及び第二引用例記載の考案との技術的思想の差異、技術的課題の差異、構成の差異、効果の差異等を誤認したものである。

原判決は、本件発明について、一般公知の空気の自然法則が、喫煙具や喫煙具箱等の中空体に呼吸作用として内在することを初めて発見し、その発見を基礎とした新規な発明であることについて、法令の解釈適用を誤ったものである。

原判決は、被上告人の準備書面(二)に、判決の基礎をなす喫煙具の呼吸作用や、喫煙具箱の呼吸作用の主要事実についての矛盾や、不明瞭な点があるのにそれを放置して判決がなされたものであるが、もし、被上告人の準備書面(二)につき必要にして十分な審理を尽くしたならば、原審とは異なる事実認定が可能となることから、原判決は、釈明権不行使による審理不尽や、理由不備等の欠陥を有するもので、訴訟手続の根本原理に違背した法令違背がある。

三 原判決には、採証を誤り審理不尽により、判決に影響を及ぼすことが明らかな重要な事項について判断を遺脱した違法がある。

1 すなわち、原審において上告人は甲第一号証ないし甲第三五号証、検甲第一号証ないし検甲第九号証を提出しているにも拘らず、調書上提出されているものは甲第一号証ないし甲第五号証に過ぎず、その他は証拠として採用していない。これは採証を誤り証拠によらないで事実を認定した違法があること明らかである。原判決は、証拠の内容から特段の事情のないかぎりその内容どおり事実を認むべきであるのに、何ら首肯するに足る理由を示すことなくその証拠を排斥するのは審理不尽であって理由不備の欠陥を有するものであり、原判決には、判決にいたる過程に訴訟手続の違背がある。

2 原判決は、後述するように、第一引用例記載の考案の目的、効果について認定事実を誤ったものであるが、もし、原審において上告人が提出した検甲第六号証のカプセルや、検甲第七号証のカプセルPTPについての証拠調が十分であったならば、原判決とは異なる事実認定が可能となることから審理不尽がある。

3 また、現在において販売されている「紙製等の箱内に喫煙具が裸のまま収納された商品」(原判決第一一丁裏第六行~第七行)として、原審において上告人が提出した証拠の、検甲第八号証の日本たばこ産業株式会社製シガレットパイプ「ウインズ」(商品名)や、検甲第九号証の東京パイプ株式会社製パイプ型フイルター「ミクロフイルター」(商品名)について十分に証拠調べをすれば、被上告人の準備書面(二)の誤りや、上告人の主張を正解することを得て、原判決とは異なる事実認定が可能となることから、審理不尽がある。

以上のように、もし、原判決が、原審における上告人の主張の意味を正解し、或いは、十分な証拠調をなすならば、異なる事実認定が可能となることから、原判決には、理由不備、審理不尽の違法がある。

第三点 原判決には、判決に影響を及ぼすこと明らかな採証法則の違背がある。

一 原判決は、原判決挙示の証拠から認定事項を明らかにすることができないから、証拠によらないで事実を認定した違法がある。

1 すなわち、いわゆる構成要件説から検討すると、原判決は、構成上の差異について、事実認定を誤ったもので、「第一引用例記載の考案は、プラスチック製の包装本体シートと金属箔製の蓋側シートとの間に錠剤、カプセル等を適宜間隔に配置して熱接着することにより右収容物を個別に密封した防湿性包装体であることは前記1(二)に記載のとおりであり、錠剤、カプセル等の収容物が密封包装されることによつて外気との接触を遮断され、病原菌等による汚染、汚損等が防止され、品質の保持が図られるという効果は、右考案の構成から当業者に容易に理解し得るところであり、その構成から自ずと明らかな効果である。」(原判決第一四丁裏第六行~第一五丁表第三行)と、本件発明の効果と対比して判示しているが、第一引用例記載の考案は、構成要件として、本件発明の喫煙具とは異なり非呼吸性の、「錠剤、カプセル」を有することを包含するものであるから、本件発明の効果と同一とした原判決の認定事実は、次に示すごとく、明らかに誤ったものである。第一引用例記載の考案の効果は、錠剤、カプセルの内部に関するものではなく、本件発明が喫煙具の内部の技術的課題を解決した効果とは同様でないから、原判決は、証拠の解釈を誤り証拠によらないで事実を認定した違法がある。

2 原判決挙示の第一引用例記載の考案のカプセルは、嵌合した二つの殻体から成る密封体であり、その中に被包装物の薬剤群を呑みやすくするために密封するものであるが、そのカプセルを更にPTPにて密封包装することから、本件発明の技術的課題を解決することが、容易に予測されるとはいえない。

この原判決の事実認定は、喫煙具の内部と外面の技術的課題の差異を誤認し、喫煙具の外面と、第一引用例記載の考案のカプセルの外面が、同様に非呼吸性であることから、PTPによる密封効果も同様に理解されると誤って判断しているものであるが、これは喫煙具の呼吸作月という自然法則を誤認していることによるもので、論理則・経験則に違反し、審理不尽がある。

原判決の認定事実は、本件発明の出願当時に、第一引用例記載の考案から、本件発明の目的、効果を容易に理解し得ることができたとはいえないから、原判決は、証拠によらないで事実を認定した違法がある。

二 原判決は、認定事実を窺知するに足るべき資料が存しない判決であり、証拠によらないで事実を確定した違法がある。

1 すなわち、原判決は、本件発明の技術的効果が、第一引用例記載の考案から容易に理解されるとして、「右考案の構成から当業者に容易に理解し得るところであり、その構成から自ずと明らかな効果である。」(原判決第一五丁表第二行~第三行)や、「してみると、本件発明と第一引用例記載の考案とは、いずれも口に入れるものの汚染を防止するために、PTP包装をし、外気との接触を遮断して品質の保持をしているものであることに変わりはない。」(原判決一五丁表第四行~第七行)と、判示しているが、これは本件発明が喫煙具の内部の技術的課題を解決するものであることに対して、第一引用例記載の考案は、カプセルの内部の薬剤の技術的課題を解決するものでないことは明白であるから、原判決は、判定にいたる論証の過程に論理則・経験則の違背があり、原判決の認定事実を窺知するに足るべき資料が存しないもので、証拠によらないで事実を認定した違法がある。

2 原判決は、「本件発明は、従来公知のPTPに喫煙具を封入したものにすぎず、喫煙具の包装上の技術的課題を解決するための特別な構成を有するものとは認められない。」(原判決第一五丁裏第一行~第四行)や、「本件発明は喫煙具に外気中の病原菌等が附着することを防止することを技術的課題としたものである」(原判決第一五丁裏第七行~第九行)や、「前掲甲第二号証(本件公告公報)によるも、本件発明が、喫煙具の呼吸作用に着目し、その呼吸作用による喫煙具内の煙道、又は中空孔内に生ずる衛生的危険を防止することを技術的課題としているものとは認められない。」(原判決第一五丁裏第九行~第一六丁表第二行)と、判示しているが、この認定事実を窺知するに足るべき資料は何等存在しない認定である。

これは本件発明公報に記載されているように、喫煙具が使用に際してその煙道、又は中空孔内を通過した煙草の煙を吸うことに使用されることから、「喫煙具の衛生的危険」ということは、「喫煙具内の衛生的危険」という意味であることと、並びに、本件発明公報内に存在する呼吸作用という自然法則の普遍性によって喫煙具の呼吸作用と喫煙具箱の呼吸作用は、同一の自然法則である事実認定を誤ったことにより、本件発明の技術的課題を誤認したもので、判決に影響を及ぼすこと明らかな法令の違背がある。

3 原判決が否認した、喫煙具の呼吸作用による本件発明の技術的課題は、本件発明公報に、「従来パイプ型フイルター、シガレットパイプ等の喫煙具は、使用に際して口と接触し、喫煙具内を通過した煙草の煙を、口内を経て体内に吸入するものであるにも拘らず、」(本件発明公報第一頁第一欄第二九行~第三二行)と、使い方が記載されているように、煙道、又は中空孔を有する中空体部の、パイプ型フイルターやシガレットパイプ等の喫煙具が、「一般に紙製等の箱内に裸のまま収納されて、店頭、倉庫、仮置場に置いたり、或いは運搬車等にて取扱われているが、箱が密封されていない」(本件発明公報第一頁第一欄第三二行~第三五行)という実態から、「箱が密封されていないので、気温の変化や震動による箱自体の呼吸作用によって箱内外の空気が出入りし易いため、」(本件発明公報第一頁第一欄第三四行~第三七行)という、これまで当業者の気付かなかった、空気を含む中空体部に存在する所謂「呼吸作用」という自然法則を発見し、その自然法則の普遍性によって、箱自体の呼吸作用と同様に、内在する喫煙具自体の呼吸作用によって、「病原歯、雑菌、湿気、臭気、塵埃等が箱内に侵入して、喫煙具を汚染する恐れがあり、潜在的な衛生的危険を内在していた。」(本件発明公報第一頁第一欄三七行~第二欄第三行)と、これまで予測されなかつた喫煙者の保健衛生上看過できない喫煙具の内部に存在する技術的問題が明確に記載されていることから、原判決の認定事実は、採証法則に違背したもので、証拠によらないで事実を確定した違法がある。

三 原判決が判断の前提とした事実を認めるに足りる証拠資料が、記録上見当らないので、原判決は、証拠に基づかない事実を認定した違法がある。

1 すなわち、原判決は、本件発明と、第一引用例及び第二引用例記載の考案の技術的思想の差異を誤認し、喫煙具に内在する呼吸作用による技術的問題を、錠剤、カプセルの外面における問題と同様と誤って判断し、喫煙具と錠剤、カプセルを同一の特性を有する収容物であるという誤った前提で、「したがって、公知のPTP包装において細長形状の収容物として喫煙具を選択することは当業者に格別困難なこととは認められず、結局、本件発明は、第一引用例及び第二引用例記載の考案に基づいて当業者が容易に発明することができたものと認められる。」(原判決第一六丁表第八行~裏第一行)と、判示しているが、これは、本件発明の目的、効果について誤った事務的判断をなし、法令の解釈、適用を誤ったもので、原判決が判断の前提とすべき事実を認めるに足りる証拠資料が、記録上見当らないのに、誤った前提による誤った結論をなしたもので、証拠によらないで事実を認定した違法がある。

2 なお、現在において販売されている「紙製等の箱内に喫煙具が裸のまま収納された商品」(原判決第一一丁裏第六行~第七行)として、原審において上告人が提出した証拠の、検甲第八号証の日本たばこ産業株式会社製シガレットパイプ「ウインズ」(商品名)や、検甲第九号証の東京パイプ株式会社製パイプ型フイルター「ミクロフイルター」(商品名)や、その他、「喫煙具箱がプラスチックフイルムで密封された商品」(原判決第一一丁裏第一一行~第一二行))や、「連続した波形状に形成したプラスチツク外殻体の空間部分に内蔵フイルターに水を含ませ、シガレット挿入口側と吸口側とに特別の密閉用蓋が嵌着されたシガレットパイプを収納し、その外殻体の裏面周囲を厚紙で接着した商品」(原判決第一二丁表第六行)等の、本件発明より劣る商品が大量に製造販売されている実状や、また、本件発明の公開後に、テラサキ株式会社製スペアフイルター「フタロ」(商品名)や、アルマン株式会社製パイプ型フイルター「パイポ」(商品名)等が、本件発明の模倣品として製造販売されている事実から明白なように、本件発明の出願当時に、当業者でも容易に発明することができたとする原判決は、原審における上告人の主張の意味を誤解し、上告人の提出した証拠について十分な証拠調をなすことなく、事実認定を誤ったことから、原判決には、判決に影響を及ぼすこと明らかな法令解釈適用の誤り、理由不備、審理不尽の違法がある。

右の通り、原判決は、上告人の主張を正解せず、本件発明公報の解釈を誤り、本件発明が、喫煙具や喫煙具箱等の中空体に内在する呼吸作用という自然法則の発見を基礎とした新規な発明である点を誤認したものである。

原判決には、判決に影響を及ぼすこと明らかなる論理則・経験則の違反、訴訟手続違背、採証法則の違背や、釈明権の不行使、審理不尽、理由不備等の違法がある。

以上いずれの論点よりするも明白なように、原判決には判決に影響を及ぼすこと明らかなる法令の違背があり、破棄さるべきものである。

以上

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